【アメリカのラウンドアップ裁判って何?】Q アメリカ生産者団体の戦いがラウンドアップ裁判の潮目を変える可能性はありますか?


回答者:公益財団法人食の安全・安心財団理事長、東京大学名誉教授 唐木英明

    農業ジャーナリスト、農業技術通信社顧問 浅川芳裕

編集担当清水泰

回答日:2020年1月16日

A 生産者団体の必死な戦いの結果、これまで農薬メーカーが劣勢だと思われてきたラウンドアップ裁判の潮目が変わるきっかけになりそうな動きが出てきています。カリフォルニア州を相手にした裁判では、原告の農業団体側が実質的に勝訴しました。どんな裁判だったのでしょうか。

■悪名高いカリフォルニア州法プロポジション65

ことの発端は2017年7月、カリフォルニア州環境保健有害性評価局(OEHHA)がラウンドアップの主成分グリホサートを「発がん性のある有害化学物質リスト」に追加したと発表したことです。そのリストに掲載されると、同物質が含まれる製品をカリフォルニア州内で販売する際、企業はパッケージに「本商品はがんを引き起こすとカリフォルニア州に知られる物質を含んでいる」という警告表示が義務付けられてしまいます

この規制は、悪名高いカリフォルニア州法プロポジション65(1986年安全飲料水及び有害物質施行州法)に基づきます。何が悪名高いかといえば、科学的根拠に乏しいだけではなく、乱用されている点。例えば、2018年にリストに追加された物質はなんとコーヒーです。冗談みたいな話ですが、焙煎した際、アクリルアミドが発生するからだといいます。

警告表示が求められるのは商品だけではなく、指定された物質が発生する場所や飲食物が提供される場所でも警告表示しなければいけません。つまりコーヒーをリストに入れたことで、喫茶店でも発がん性の表示義務が課されるわけです。それはおかしいということで、スターバックスらが州と争った結果、なんとか法的義務は免れる判決が下されました。

ディズニーランドやカフェなら「これがカリフォルニア州のトンデモ法律か!」と少しは笑って済まされますが、もともと健康に悪いイメージがある農薬に発がん性の警告表示が義務付けられては、ただでは済まされません。農薬の営業妨害になるだけではなく、それを使った農産物に対する風評被害が広まり、取り返しのつかない事態が想定されます。

■米国環境保護庁(EPA)がカリフォルニア州のグリホサートに対する規制を無効にする措置を発表

黙って見過ごせないと生産者団体は2017年11月、OEHHA局長とカリフォルニア州司法長官を相手取り、表示義務の仮差し止めを求める訴訟を起こしました。2018年2月に下った判決文には、「カリフォルニア州が企業にがん警告を強制する場合、警告は事実に正確で誤解を招かないものでなければならない」「グリホサートが実際にはがんを引き起こすことは知られていないという証拠の重さを考慮すると、要求されている表示は事実上、不正確であり、誤解を招くものである」とあります。

まさにギリギリのところで原告側が求めていたラベルへの警告義務の仮差し止めは受け入れられたのです。判決の直後、原告代表の全米小麦生産者協会の会長は「今回の仮差し止め命令は米国農業界にとっての勝利です」とコメントしました。

そしてついに、米国環境保護庁(EPA)は2019年8月、カリフォルニア州のグリホサートに対する規制を無効にする措置を発表しました。カリフォルニア州のグリホサートに関する発がん性物質認定を「誤り」とし、「商品に発がん性について表示すること自体を禁止する行政指導」を発したのです。EPAの長官は今回の措置を行なった背景を「EPAとして、グリホサートに発がんリスクがないことを知っているにも関わらず、(カリフォルニア州が)不正確なラベル表示を要求することは無責任である。我々はカリフォルニア州の欠陥制度が連邦政府の方針を左右するようなことは認められない」と説明しています。

以上のように、ラウンドアップのユーザーである生産者が立ち上がることで、状況を変えることは可能なのです。

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