【コラム】 ラウンドアップに関する風評

『農業経営者』2019年6月号 No.279「江刺の稲」から転載

株式会社農業技術通信社代表取締役兼『農業経営者』編集長

NHKの「クローズアップ現代」で、フェイクニュースがきっかけで批判を浴びた大阪台湾事務所(台湾の大阪総領事館に相当)の所長である蘇啓誠氏が自殺したことを知った。

昨年9月4日、台風21号で連絡橋にタンカーが衝突し、関西国際空港に約3000人の旅客が取り残されたことが発端だった。翌5日の午前9時に複数のバスが空港に到着して旅客の救出が始まった。関空がバスを手配したものだった。しかし、中国人あるいは台湾人がSNSでそれを「中国の大使館がバスを手配した」「中国の大使館がみんなを助け出してくれた」などと投稿した。さらに、「台湾の旅客が『バスに乗れるか?』と尋ねると、『自分が中国人だと認めるならバスに乗ってもいい』と言われた」というものまであったという。

まったく事実に反する情報である。にもかかわらず、台湾のメディアがその書き込みの真贋をチェックすることなく報道し、大阪台湾事務所を批判した。ネットも炎上し、野党の議員までもが「担当者の対応を調べて責任を追及する」などとぶち上げたという。大阪台湾事務所のトップである蘇啓誠氏が自殺したのは台風から10日後だった。

この経過を見て、ネットをにぎわすラウンドアップに関するフェイクニュースのことを考えた。そして、メディアや社会的影響力のある人物による言動も。

特集のリードにも書いたが、つい先日の5月13日、カリフォルニア州オークランドの州裁判所の陪審が下した評決を報道するメディアの中には「モンサント除草剤でがんに、加州陪審が2200億円の補償命じる」というものがあった。ラウンドアップでがんになったと見出しで伝えているのである。しかし、この裁判の陪審団は「バイエル(モンサントの買収先)がラウンドアップの発がん性リスクについて警告を怠ったとして、懲罰的損害賠償20億ドルと補償的損害賠償5500万ドルを原告に支払うよう求めた」ものだ。

この記事を読んだ人は誤解するだろう。

そもそもラウンドアップ(グリホサート)の発がん性が問題になるきっかけは、2015年にWHO(世界保健機構)の外部組織であるIARC(国際がん研究機関)が(おそらく人に発がん性がある)とされる「グループ2A」と認定したことにある。しかし、この評価には当初から多くの科学者や研究機関が批判し、その後、IARCの上部機関であるWHOとFAO(国連食糧農業機関)が合同で組織したJMPR(合同残留農薬専門家会議)において「予想される接触による暴露量で遺伝毒性を示す可能性は低く、食事を介した暴露によるヒト発がんリスクの可能性は低い」と結論づけている。

それにもかかわらず、2017年6月に米国カリフォルニア州環境保健有害性評価局(OEHHA)が、グリホサートを発がん性物質に加えると声明を出し(プロポジション65の物質リスト)、商品にその表示を義務づけた。今回のカリフォルニアの判決はそうした同州独自の認定によったものなのである。EPA(米国環境保護庁)もグリホサートの発がん性を否定しているにもかかわらずに。

本号の締切の迫る5月13日に評決の出たカリフォルニア州での裁判を含め、次号で続編としてカリフォルニア州での裁判とその背景を報告したい。フェイクニュースを正すために。

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