【特別寄稿】食の安全を科学で検証する ‐15- =東京大学名誉教授、食の安全・安心財団理事長 唐木英明=

部週刊誌が、いたずらに食への不安を煽る連載を続け、それが物議をかもしている。いまさらと思う向きもあるやもしれないが、本紙では改めて食の安全とは何か、食の安全をどう理解すべきかを、この分野の第一人者である東京大学名誉教授、公益財団法人「食の安全・安心財団」理事長の唐木英明氏に科学的に解説してもらうことにした。本紙では回を分けこれを紹介していく。

※本記事は、農村ニュースに掲載された記事(https://www.nouson-n.com/media/2020/09/07/5202)を許諾を得て、転載したものになります。

■訴訟に利用された「IARC」

国際がん研究機関(IARC)がラウンドアップに「おそらく発がん性がある」と判断したのは都合がいいデータだけを選んだ結果であること、これを行ったのがラウンドアップ評価委員長だったブレア氏であることをロイター通信のケランド記者が明らかにしたのですが、カリフォルニア州での裁判記録などから、もっと怪しい人物が出てきました。

それは反農薬、反遺伝子組換え運動を展開する米国の「環境保護基金」という団体の科学者ポルティエ氏で、以前にIARCの委員長を務め、IARCがラウンドアップの評価を行うことを決めた人物であり、その委員会に特別顧問として参加しました。

そのポルティエ氏はIARCが評価結果を発表する2か月前に米国の2つの弁護士事務所の弁護士と会っていて、これらの弁護士事務所はIARCの評価が発表される前にその内容を知っていました。そして彼はIARCの評価が発表された直後に弁護士事務所と高額の報酬でコンサルタント契約を結び、弁護士事務所はその後カリフォルニア州でがん患者の代理人としてモンサント社を訴え、高額の賠償金を勝ち取りました。ポルティエ氏はこれらの訴訟を勝利に導くためのコンサルタントとして働いたのです。

IARCの評価が発表されると世界の科学者や研究者が「ラウンドアップに発がん性はないのだから、IARCはおかしい」と声を上げ、とくに欧州食品安全委員会とドイツ連邦リスク評価研究所が強く批判をしました。これに対して反論したのがポルティエ氏でした。彼はヨーロッパ各国を回って政府関係者にIARCの正しさを訴えて歩いたのです。当時、EU議会ではラウンドアップの農薬としての承認を2022年まで延長することを決めていたのですが、EU各国の多くはこれに反対してラウンドアップの規制を強め、それ以後の使用ができなくなる可能性があります。そしてポルティエ氏が環境保護運動の一環として規制の後押しをしていたのです。

このような調査結果から、驚くべき陰謀の可能性が出てきました。米国の大手弁護士事務所は、1990年代からたばこ企業を相手に訴訟を起こして、極めて高額の懲罰的賠償金を勝ちとって来ました。企業がたばこの健康被害を喫煙者に知らせなかったためにがんになったという理由です。そのたばこ訴訟が和解になり、次の訴訟材料を探していました。

そこに出てきたのがラウンドアップはがんを引き起こすという話です。しかし、それだけでは裁判を起こしても勝てません。そこで弁護士事務所はポルティエ氏と組んで、IARCがラウンドアップの評価を行うように仕組み、その委員会に入り込んで都合がいいデータだけを集めてラウンドアップには「おそらく発がん性がある」という結論を作り、これに対する世界の科学者の批判に対してポルティエ氏が精力的に反論して各国政府を味方につけ、IARCという国際機関の評価をお墨付きにして裁判を起こし、高額の賠償を勝ち取った疑惑です。

米国には懲罰的賠償金制度があり、賠償額は企業が倒産するほど巨額で、弁護士事務所はその半分を成功報酬として受け取ると言われます。

この疑惑に対する質問の答えもポルティエ氏が書いた可能性もあり、IARCはまともに答えていません。IARC不要論が出るのも仕方がないですね。

◆筆者

唐木英明(公益財団法人食の安全・安心財団理事長、東京大学名誉教授)

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