【渕上桂樹の“農家BAR NaYa”カウンタートーク】4杯目:トンデモ講演会潜入記

前回までのコラムでは「タネをつなごう(仮)」なる地域グループに誘われ、そこで様々なトンデモ農業論に出会った話をしました。私はその後グループを離れ、トンデモを追うハンターになりました。

■トンデモ発信源の元農水大臣講演会

そんなある日、トンデモ情報の発信源である山田正彦元農林水産大臣の講演会に行く機会がありました。今回の講演は、山田氏と現役国会議員の田村貴昭氏の対談形式。山田氏の主張が直接聞ける機会ということで、内容に期待していました。ただ、私は以前山田氏とのオンライン対談をした際に、同氏のデータ引用の誤りを指摘したところ速攻で対談を打ち切られた過去があり、「もし自分だとばれたら追い出されるかな?」と心配しながら会場に入りました。

講演のテーマは、主要農産物種子法(以下「種子法」)・種苗法のみならず遺伝子組換え作物(以下「GM作物」)やゲノム編集作物、そして農薬に除草剤と多岐にわたっていました。門外漢の私には専門的なことはわかりませんが、そんなにたくさんのテーマをこの限られた時間で捌ききれるのかな、と疑問に思いながら聞いていました。

講演の内容はというと、予想していた通り「トンデモない」ものでした。私は以前山田氏の後継者のトンデモ講演を聞いたことがありました(参照:3杯目:トンデモ農業論の裏を見た)が、今回はその時とはまた一味ちがうものでした。挙げればキリがないのですが、かいつまんで記します。

■トンデモその1「種子法と種苗法がごちゃまぜ」

農業をめぐる法律「種子法」と「種苗法」は名前こそ似ているものの、目的も機能も異なる法律です。大雑把に言うと、前者は米・麦・大豆の種子の安定供給について定められた法律(現在は廃止された)で、後者は新品種の著作権のようなものを定めた法律。つまり全く違うものです。

ところがこの講演では、種子法の話をしているのに途中から種苗法の話になったり、種苗法の話をしているのにいつの間にか種子法の話になっていたりと、まるで反復横跳びのように行ったり来たりしていました。このような手法は聴衆の不安を掻き立てるのには効果的かもしれませんが、法律の説明としては正確さを欠いています。私は恐怖に駆られた山田氏のファンが例外なく種子法と種苗法を混同している理由に疑問を感じていましたが、こんな話を聞いていたらごちゃまぜになるのも無理ないなと納得しました。

■トンデモその2「危険の正体がわからない」

法律の話題以外では、除草剤(ラウンドアップ)がテーマに上がりました。日本では普通に使用されているラウンドアップが、いかに世界で危険視され禁止されているか(このような事実はない)を強調し、これでもかとばかりに不安と恐怖を煽っていました。山田氏は「除草剤(ラウンドアップ)が危険な理由は、その先にGM作物があるからだ」と説明していました。ところが、数分後には「GM作物が危険な理由は、その先に除草剤(ラウンドアップ)があるからだ」と述べる始末。完全なループです。「鶏が先か卵が先か」という因果性のジレンマを思い出します。

■トンデモその3「ググればスグにバレる嘘」

「輸入小麦から基準値を超える残留農薬が検出された!」という話題では、手元に配布された資料に残留濃度の数値が根拠として記載されていました。私は残留農薬の基準値については無知なので、その場で検索してみたところ、残留濃度は“基準値を超える”どころか基準値の100分の1以下の数値でした。山田氏は「メディアが報じない」と憤っていましたが、基準値の100分の1以下の残留農薬が検出されたくらいでいちいちメディアが騒いでいたら大変です。この講演では「ググればスグにバレる嘘」が数多く見られた印象でした。

■トンデモその4「デタラメのみによって構成された主張」

山田氏はモンサント社とラウンドアップの不安を煽るのに熱心なようで、講演では何度も名前が出てきました。終盤には「①モンサント社のラウンドアップによって②米国の男性が末期がんを患い③裁判でその因果関係が認められた」というショッキングなストーリーを紹介していました。
ところが、これがツッコみどころ満載なのです。まず
モンサント社はバイエル社に買収されて既に存在していません。
“末期がんを患う”のが意味不明です。どこのがん?
裁判では原告男性のがんとラウンドアップの因果関係が認められていません。それどころか、裁判の争点にもなっていません。元弁護士の山田氏は裁判の争点に無頓着なのでしょうか?(https://agrifact.dga.jp/faq_detail.html?id=78&category=25&page=1
このように、紹介されたストーリーは最初から最後までがデタラメのみによって構成されていました。

このほかにもありとあらゆるトンデモが登場し、「○○がないとは言い切れません」「○○になってしまったらどうなってしまうでしょう?」のように根拠を示さず恐怖を煽る怪しいストーリーがいくつも登場しました。私は「いやいや、根拠はなんだよ」と心の中でツッコみを入れながら聞いていました。

■どのような想いでトンデモ論を展開しているのだろうか

講演の最後には、山田氏が制作に携わった映画の宣伝があり、弟子の県議会議員立候補予定者の男性が前売り券の販売に駆り出されていました。私は記念にサインでももらおうかと思い(ミーハー)、山田氏の元へ挨拶に行きました。山田氏は「ありがとう」とお礼を言い、快くサインに応じてくれました。

私はその様子を見て、山田氏のこれまでの人生に想いを巡らせました。私と同じ長崎県出身の山田氏は、若かりし頃どんな志を抱いて地元を出たのだろう、どんな努力や苦労を積み重ね、どれだけの人に感謝されたのだろう、そして、人生の締めくくりに活動家や反医療ビジネスに担がれ、後の世代からはどう語られるのだろうか、と。私はそんな想いを巡らせながら頭を下げ、会場を後にしました。

トンデモ大臣の追跡は今回でひとまず終了します。


◆筆者

農家BAR NaYa/ナヤラジオ 渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)

◆プロフィール

1984年長崎県出身。流通大手に就職し、千葉県船橋市で農産売場を担当する。2011年に地元に戻るも就職先が見つからず実家の畑を耕しながら農業を学ぶ。

あるとき小さな失敗が原因で規格外の野菜を大量に作ってしまい、やむなく軽トラで町まで運び、路上で販売する日々が始まる。これを機に消費者と直接話せることを期待するも、ほとんどの買い物客は農家の声に興味を示さず目論見が外れる。

せめて売上の増加につながればと思い、野菜と一緒にドリンクの販売を始めたところ好評に。ドリンクを飲みながらだと、農業トークも弾むことに気が付く。次第に「普段はどこでお店を開いているの?」と聞かれるようになったので、2018年に試しに「農家BAR NaYa」を開業した。50種類以上の珍しくて豊富な自家製果実酒を提供している。なぜか椎茸酒がいちばんの人気でいちばん不人気が梅酒(おいしいのに)。

カウンターでの農業トークがきっかけで2019年、エフエム諫早で農業バラエティ「ナヤラジオ」放送開始。メインパーソナリティを務める。番組の方針は「農業を飾ることなく、あらゆる方面からお話する」こと。2020年には株式会社ナヤカンパニーを設立。ふるさとに産業を興すべく、弟と共に羊牧場開設を目指す。

趣味は一人旅。中東や東ヨーロッパを中心に三十数か国を旅する。アラビア語と韓国語が少し話せるが滅多に使う機会がない。

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