グリホサートとASDの関連は確認されず!  千葉大学発表の動物実験に関するQ&A

国立大学法人千葉大学の発表「妊娠中の農薬の摂取が、子どもの自閉症の発症に影響か〜新しい予防法・治療法の開発に期待〜」(2020年5月11日のニュースリリース)に関して寄せられた質問に回答します。

千葉大学が「グリホサートがASD(自閉症スペクトラム障害)の原因である可能性がある」と発表しました。本当でしょうか。

A 千葉大学社会精神保健教育研究センターの橋本謙二教授のグループが、米国科学アカデミー紀要の電子版に研究結果を発表した論文のことですね。

ASDは発達障害の一種で、まだ原因が特定されておらず、根本的な治療法は今のところありません。対処法としては、治療より管理や支援が中心となっています。弘前大学の最近の調査では、国内の5才児におけるASDの有病率は3.22%と推定されています。

最初に言っておきたいのは、この論文で示されたのはあくまでも仮説であって、科学的に証明されたものではないことです。

論文内にはっきりと「本結果からヒトでの妊婦のグリホサートの摂取が、子どもにASDを引き起こすという結論は導き出せません」と明記されていますし、橋本教授もインタビューなどで「関連を調べるには、今後、妊婦を対象とした大規模な追跡調査が必要」と言っています。

千葉大学の論文は、どうやって「グリホサートがASD(自閉症スペクトラム障害)の原因である可能性がある」という仮説を導き出したのでしょうか。

A グリホサート(除草剤ラウンドアップの主成分)と腸内細菌、あるいはASDの関連を示した論文は、ほとんどが相関関係を根拠にしており、因果関係を明らかにしていません。因果関係というのは、原因から結果が起る仕組みや過程のことです。それに対して相関関係というのは、統計的な数値の類似にすぎません。つまり、推論に過ぎないわけです。

千葉大学の実験では、妊娠中のマウスにグリホサートを投与した結果、その子どもにASDに似た行動があらわれた、とあります。そして、グリホサート入り飲料水を飲ませた妊娠マウスから生まれた子マウスの糞を調べると、そうではない子マウスと比べて、腸内細菌叢のバランスが乱れていたそうです。このことから、腸内細菌叢のバランスの乱れが、ASDに関連していることを示唆しています。しかし、その因果関係は明らかにされていません。

それは十分な根拠と言えるものですか。 

十分な根拠だとは言えません。

まずは、腸内細菌とASDに関係があるとする説はいくつかありますが、いずれも科学的に証明されていない相関関係を使った仮説、それもかなり無理がある推論にすぎません。

たとえば、交番の数が多い地域ほど、犯罪件数が多いという事実があり、相関関係があるわけです。だからといって「交番が多いから、犯罪件数が多い」という推論が成り立たないことは明らかです。 因果関係を明らかにせず、相関関係のみで推論すると間違った結論になる場合があります。

また、動物実験の結果がそのまま人間に当てはまるわけではありません。マウスは哺乳類ですから、トカゲや鳥に比べるとずっと人間に近い動物です。だからこそ実験に使われるのですが、言うまでもなく、マウスの実験結果がそのまま人間に当てはまるというわけではありません。千葉大学の実験においても、マウスにあらわれたのは「ASDに似た行動」であって、人間のASDと同じものとは言えません。

神経科学の権威であるカルフォルニア大学サンディエゴ校のアリソン・ムオトリ教授は、「自閉症は多因子性のヒトの状態で、意義のある精度でマウスやサル等でこれを再現することは非常に困難である」と述べています。

彼はまた、ASDの研究は、マウスを使った信頼性の低い動物実験のせいで遅れている、と主張しています。彼は、iPS細胞の開発などの新しい技術で可能になった、培養した人間の神経細胞を使った実験の方が、よりASDの研究は進むだろうと予測しています。(https://www.hsi.org/news-media/autism-research-animal-models-muotri-jp-033015/?lang=ja などを参照)

今回の千葉大学の実験で明らかになったのは、グリホサートの危険性ではなく、むしろ、「グリホサートとASDの関連性が確認できなかった」ことです。

グリホサートとASDの関連性が確認できなかったことは一安心です。ただ、輸入小麦からはグリホサートが検出されたと聞いています。私たちは輸入小麦を使ったパンやパスタを食べ続けても大丈夫なのでしょうか。マウスにあらわれた「ASDに似た行動」を引き起こすことはありませんか。 

ありませんし、好きなだけパンやパスタを食べ続けても大丈夫です。

残留農薬基準値以下の輸入小麦を使ったパンやパスタを食べ続けたとしても、それのみが原因で「ASDに似た行動」を引き起こす可能性はほぼありません。マウスの「ASDに似た行動」を引き起こした最大の要因は、千葉大学の動物実験で使われたグリホサートの投与量があまりに大量だったからと考えられます。研究者自身が「本実験で用いたグリホサートは高濃度(0.098%)である」と言っているほどです。この濃度の水を体重およそ30gの妊娠マウスに与えたとすると、1日4.9mgのグリホサートを投与したことになります。体重1kg当たりに換算すると163.3mgです。

日本の食品安全委員会では、人間1人が1日に摂取しても安全なグリホサートの量を、体重1kg当たり1mgとしています。実験でマウスに投与された量は、実にその160倍以上でした。マウスに何らかの異常行動が生じても不思議ではないほどの大量投与で、人間が摂取するのは物理的に不可能な量です。

では次に、輸入小麦に残留していたとされるグリホサートの量はどの程度だったでしょうか。ある市民団体の調査では、市販のパンから1kg当たり0.1〜1.1mg程度のグリホサートが検出されました。仮に1mgだったとして、体重50kgの人が許容量を超えるグリホサートを摂取するには、1日に50kg、つまり自分の体重よりも重いパンを食べなければならないことになります。つまり、好きなだけ小麦製品を食べ続けたとしても、市民団体の調査で検出された「ごく微量」のグリホサートでは、体への影響はまったくありません。

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