『週刊新潮』(2020年4月16日号)掲載 グリホサート/ラウンドアップに関する記述を徹底検証1


週刊新潮(2020年4月16日号)に、『特集「食」と「病」』第5回の記事が掲載されました。その中のラウンドアップ及びグリホサート(ラウンドアップの有効成分)について、科学的事実に反する記述が数多く見られました。そこで個々の内容についてQ&A形式で検証し、科学的エビデンスに基づき反証していきます(Qの括弧内は記事からの引用・抜粋)。





以下、5月10日更新!



以下、5月22日更新!

「国産小麦以外、パン、天ぷら粉、スパゲッティといった小麦粉製品の五割からグリホサートが検出される」、「輸入小麦から猛毒の理由」とありますが、小麦製品は食べてはいけないということですか。


A 記事には検出率は書いてありますが、検出量は書いてありませんね。記事中のグラフ出典である農民連食品分析センターHPを見ると、検出量は0.02〜1.10ppm(0.02〜1.10mg/kg)とありますが、この量をどのように考えればいいでしょうか。

人が一生涯に渡り、毎日摂取しても毒性のない量である「一日摂取許容量(ADI)」というものがあります。同記事で検出されたというグリホサートのADIは、体重1kgあたり1mg/日です。体重60kgの人の場合、 ADIは60mgということになります。

このADIと一日に消費する小麦製品からの検出量とを比較してみましょう。そうすれば、その量が本当に「猛毒」かどうかわかるはずです。

答えは、ADI(一日摂取量)のわずか0.0029%~0.163%となります。

※算出方法
まず、日本人の1日当たり小麦消費量を計算。年間消費量32.4kg(農水省、2018年)÷365日=89g/1日。次にそのグリホサート検出量(推定)を計算。1㎏あたり0.02〜1.10mgの89g分は0.00178~0.0979mg/日。この数値を体重60㎏の人のADI60mgと比較するには、0.00178~0.0979mg÷60mg=一日摂取量の0.0029%~0.163%。

許容量と比べてきわめて微量だとわかりますが、それでも「猛毒」なのでしょうか。

グリホサートだけではなく、化学物質には「用量作用関係」というものが存在します。高濃度では毒性があるものであっても、低濃度であれば毒性は見られない(無害)のが通例です。多くの実験から、グリホサートにもこの原則が当てはまることが科学的に証明されています。

ですから、「猛毒」というのは明らかな誤りで、皆さんを不安にさせる不適切な表現といえます。

参考


「日本人の尿を調べたら、多くの人からグリホサートが検出されるといわれる」とありますが、心配しなくて大丈夫でしょうか。


A 尿から検出されると聞くと大変ご不安に感じるでしょう。しかし、「検出=危険」とすぐに考えることはありません。

大切なのは、「どのくらい検出され、その量がADI(一日摂取許容量:人が一生涯に渡り、毎日摂取しても中毒を起こさない量)と比較してどの程度か」という視点で理解することです。

人の尿を検査すると、通常1〜10μg/ℓ(1μg=0.001mg、つまり0.001〜0.01mg/ℓ)のグリホサートが検出されるといいます。

グリホサートのADI(一日摂取許容量)は「体重1kgあたり1mg/日」です。つまり、体重60kgの人であれば、1日の摂取許容量が60mgとなります。

その60mgと、尿から検出される0.001〜0.01mg/ℓという量を比べてみましょう。許容量のわずか6万分の一~6000分の一ほどの極微量だとわかります。まったく心配いりません。

しかも、それは体内にとどまる量ではなく、尿によって排出されている量です。微量のグリホサートが作物や水を通して仮に体内に入ったとしても、排出され、時間とともに減少しているのです。



「ラウンドアップの(残留)基準値をさらに大きく(小麦は6倍、ソバは150倍など)している」とありますが、規制緩和して大丈夫でしょうか。


A 食品衛生法に基づき、設定されたラウンドアップの残留基準値の変更内容をみてみしょう。


上のリンク内に記載されていますとおり、変更には緩和もあれば、厳格化もあります。

具体的には緩和されたのはソバ、小麦、なたねなど33品目。逆に、厳格化されたものはえんどう、いんげん、きのこ、肉類など35品目で、その他の102品目は変更されていません。

またそもそも残留基準値は、毎日の食生活でこれらの食品を食べても一日摂取許容量を超えないように、食品ごとの値を決めたもので、安全な食生活を守るための一日摂取許容量の内訳に当たります。

いい方を変えると、一日摂取許容量はコップであり、作物ごとの残留基準はコップに水を入れる小さなスプーンのようなものです。すべての作物のスプーンでコップに水を入れても、絶対にあふれ出ないように、スプーンの大きさを決めています。一部の作物のスプーンの大きさを変更しても、コップの容量を超えない限り、健康に影響はないのです。

今回の変更では一日摂取許容量は変えていないので、「安全基準の緩和」ではなく、安全基準の範囲内で内訳を変更したにすぎません。心配は不要です。

参考


「完成品のラウンドアップの界面活性剤は有効成分のグリホサートより100倍以上毒性が高いことがある」とありますが、グリホサートは安全だけど、ラウンドアップ(主成分はグリホサート)は毒性の強い界面活性剤などが使われており、危険だということですか。


A ラウンドアップ類似製品(※1)にはどれも除草作用があるグリホサートと、その働きを助ける界面活性剤などが入っています。ラウンドアップ類似製品の種類は多く、2012年にヨーロッパで登録されたものだけでも2000種類を超え、そして、それらに添加される界面活性剤の種類は製品によって異なります。

では、ラウンドアップに添加されている界面活性剤は本当に危険なのでしょうか。

「英国メネージ教授らの除草剤に含まれる界面活性剤に関する論文」で確認してみましょう。界面活性剤の培養細胞に対する毒性を試験管内で調べた研究です。

第一世代のラウンドアップに含まれていたPOEAと呼ばれる界面活性剤の毒性については、グリホサートの毒性より強かったことが確認されています。しかし、1990年代中期から毒性が約100分の1の界面活性剤に変更され、安全性が高い界面活性剤に置き換えられたとの結果が出ています。つまり現在は、グリホサートより毒性が強い界面活性剤は使用されていないのです。 
 
よって、「完成品のラウンドアップは有効成分のグリホサートより100倍以上毒性が高いことがある」という記述は完全な誤りです。

※1:ラウンドアップは製品名。「ラウンドアップ」は特許が切れたので、多くの企業がほぼ同じ成分の製品を違った名前で販売している。それらをここでは「ラウンドアップ類似製品」と呼ぶ。
※2:出典 R Mesnage, C Benbrookb, MN. Antonioua. Insight into the confusion over surfactant co-formulants in glyphosate-based herbicides. 

参考


以下、5月10日更新!

Q 「農薬一種類なら基準値以下でも、食べた農薬類が複数だと、人間の生理を変えてしまうこともある。また、単品では発がん性がないのに、複数に暴露すると発がん性を発揮することもある。これが複合毒性だが、この毒性試験は行われていないし、残留基準値もない。」とありますが、本当ですか。


A この記述は正しくありません。その理由を説明します。

化学物質には、細胞の受容体に結合するための「しきい値」という濃度があります。「しきい値」は、一日あたりの摂取許容量(ADI)※1と考えられています。

しきい値以上の濃度の場合には、化学物質は細胞の受容体に結合して作用する場合があります。しかししきい値以下の濃度であれば、化学物質は細胞の受容体に結合できないので、何の作用もありません。つまりしきい値以下の濃度の化学物質を何種類か同時に摂取したとしても、それらが別の化学物質(すなわち別の受容体に結合するもの)であれば、何の作用も起きません。そのため、一日あたりの摂取許容量(ADI)に満たないもの同士では、有害作用は起こり得ません。

つまりゼロをいくつ足してもゼロにしかなりません。

※1 一日あたりの摂取許容量(ADI)は、動物試験等で得られた最も低い「無毒性量(安全とされる量)」の100分の1

詳細は農薬工業会のHPをご覧ください。
週刊新潮第5回2020年4月16日号に関する農薬工業会見解


Q「ラウンドアップそのものも、その安全性に関する試験はラウンドアップではなく、主要成分のグリホサートでやっていた。なぜラウンドアップでしないのか?」との記述がありますが、なぜですか。


A  ラウンドアップに限らず、農薬はすべて有効成分で安全性試験を行います。なぜかというと、医薬品と違い、農薬の製剤そのものを口にすることがなく、食品や水から摂取する可能性があるのは有効成分(この場合はグリホサート)だからです。

また製剤のまま摂取する医薬品は、メリット(治療効果)よりデメリット(副作用)が大きいと判断された場合は、医薬品として認可されませんが、「農薬はデメリットがあれば、全て禁止」という原則があり、医薬品のようにデメリットがあっても認可されることはありません。

つまり農薬はすべて有効成分で安全性試験を行なっており、ラウンドアップが特別ではありません。

参考


Q  セラリーニ教授のラットを使った実験で、「ラウンドアップを与えなかったグループも老化で腫瘍があらわれましたが、ラウンドアップを与えた方は、腫瘍の数が2〜3倍ありました」とありますが、この実験結果についてどう判断したらいいですか。


A  セラリーニ氏が発表したこの論文は、使用したラットの種類、試験に用いた動物の数、発表したデータなどが世界的に認められた標準的手法に従っていないため、『各国の登録関係機関から信頼できる結果ではない』と判断されています。そのため、当初発表された学会誌から掲載を撤回されています。注意してください。

さらに、ヨーロッパでは上記セラリーニ氏の論文により社会的な論争になったこ とから、セラリーニ氏の試験で生じた懸念や疑問について精査することを目的として、EU が出資し、ラット90日間摂餌試験、慢性毒性試験 (1年間)及び発がん性試験 (2年間)の試験が実施され、報告書が発表されました。こうした試験の結果、グリホサート製剤の有無にかかわらず悪影響は観察されなかったと結論付けられました。

つまりこの論文は、科学的に認められていません。またこの論文を引用した情報にも注意が必要です。

参考
週刊新潮第5回2020年4月16日号に関する農薬工業会見解


以下、5月22日更新!

Q「収穫前にラウンドアップを撒いて小麦を枯らすんです。それから収穫すると、効率がよくて収量がいい。これをプレハーベスト(収穫前)と言いますが、カナダやアメリカの小麦のほぼすべてからグリホサートが出ます」との記述があります。プレハーベストには悪い面しかないので、やめた方がよいのではないですか。


A そんなことはありません。このプレハーベストに関する記述には間違いが多々あり、正確とはいえません。

まず、「収穫前にラウンドアップを撒いて小麦を枯らす」との記述がありますが、これは完全に間違いです。

小麦は、「出穂期」後、「登熟期」を経て「成熟期」へ進行していきます。この「登熟期」の初期から、小麦の葉は株から黄化していきます。そして「成熟期」を迎えると、外観上は茎葉の穂首が黄化して、穂が枯れ、黄緑色を消失して褐色になります。また粒は緑が抜けて、のり状の硬さに達します。粒重量の増加もこの期に完了します。プレハーベストで、ラウンドアップなどが散布されるのはこの「成熟期」を迎えた後です。

つまり、すでに黄化した状態の小麦に散布するため、「小麦を枯らす」という記述は正しくありません。

小麦は成熟期の後に、穂軸が折れやすく脱粒が多くなり、粒が硬くなる「枯熟期」に入り、そこで、収穫適期が決められます。成熟期での穀粒の水分量は40〜50%ですが、それが12~13.5%以下になると収穫します。ただし、成熟後の降雨や収穫の適期前後に降雨が予想される場合などには、水分量が十分下がらない上、収穫作業もできません。かといって水分量が高い時期に前倒しで収穫すると、小麦の品質が大幅に低下してしまいます。そこで、天候の都合を考慮しながら、穀粒乾燥を促し、収穫できる水分量まで低下させる必要がある場合にのみ、小麦農家はプレハーベストを行います。もちろん、プレハーベストは残留農薬試験等をクリアして認可された散布法です。また、散布時期は「枯熟期後期」以降と定められています。

また、「プレハーベスト後に収穫をすると、効率がよくて収量がいい」との記述も正確ではありません。収穫量に関していうと、成熟期つまり小麦の粒重量の増加が完了したあとで除草剤を散布するプレハーベストにより、収穫量が増えることはありません。ただし小麦は生育しなくても、雑草が増え続けることで、土壌の肥料分を吸い取ってしまい、また雑草の種子が収穫物に混じることで品質が低下しまいかねません。その点においては「収量がいい」と言えるかもしれませんが、完全に説明不足です。

ではなぜ、雑草管理のためにプレハーベストを行なっているのでしょうか。近年、米国やカナダの多くの小麦生産者は、環境保全や土壌保全のために農地を耕さずに作物を栽培する「不耕起栽培」や「耕起を最小限にする栽培」※を採用しています。この不耕起栽培の大きな課題が「雑草」なのです。このエコと生産の省力化を両立させた、より高度な栽培技術を実現するために、グリホサートなどの除草剤が使われるわけです。

※不耕起栽培は、土壌を耕さないので、作物残さ、さらには土壌有機物の分解が遅れること、土壌侵食が抑制されること等から、表層土壌中の炭素の貯留に効果が高いと言われています。また、表層土壌における有機物増加に伴う生物多様性の保全効果に加え、生産の省力化、燃料の節減等を通じた生産コストの低減等にも一定の効果を有しています。

この栽培技術は、注意深く、正確なタイミングで除草等が実施される必要があるため、科学的な見地から規制機関により厳密に管理されます。例えばカナダの場合、作物保護(農薬)に関するガイドの推奨事項に応じてプレハーベストが行われています。その中には、「グリホサートは植物から種子に移動しないように散布する。生産者は対象となる雑草の種類など目的により、最適量のうち最も少ない量を散布する」という項目があります。また散布後、除草剤が土壌で分解される期間等を考慮して最低7日間は収穫することができません。使用する量に関しても、1エーカーあたりわずか約12オンス(=約40aあたり約30gつまり10aあたり約7.5g)程度のごくごく少量です。プレハーベストの様子として、水浸し、畑(圃場)がベタベタの写真が紹介されていることがありますが、あれはほとんどが希釈用の水だということが使用量からわかります。

それでも米国やカナダの小麦生産者は、効率化と収穫量増加のためだけに、技術や知識が必要なプレハーベストを行なっているといえるでしょうか。

さらに本文中には、まるで米国やカナダでは、すべての小麦栽培でプレハーベストが採用されているような記述が多々見られますが、全米小麦協会は、「米国においてグリホサート(ラウンドアップ主成分)によるプレハーベストは、小麦栽培面積の3%未満のみ適用されているめずらしい栽培技術」だとしています。つまり日本に輸入される海外産小麦のほとんどはプレハーベストされていないのです。

しかし実際に、海外産の小麦粉製品(パン、天ぷら粉、スパゲッティ)からグリホサートが検出されたとの記述がありました。とはいえ検出率のみで検出量の記載はありません。実際に検出された量をみても、ADI(一日摂取量)のわずか0.0029%~0.163%とごく微量で、ヒトの健康に何の害も及ぼさない量です。読者を不安にさせるだけで、まったく意味のない記述です。


この筆者はプレハーベストについても、他国の栽培状況についても、まるで理解していない、もしくはあえて読者のミスリードを誘おうとしていることがわかります。

参考

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