【種子法の廃止は危険?】Q 民間の参入により種子が値上がりして、米の価格が高騰するのか?

※本論説は朝日新聞DIGITAL「論座」に2018年8月20日付で掲載されたものを転載(一部再編集


A そのような懸念の根拠として、三井化学アグロが開発した「みつひかり」の例が挙げられている。都道府県の奨励品種ではないが、大手牛丼チェーンが購入するなど、かなり広く栽培されている。このみつひかりの種子代は10アール当たり16000円で、現在の奨励品種の10倍ほどする。しかも新登録品種であるため自家採種ができず、毎年種子を購入しなくてはならない。これだけの事実から「日本の米の価格は10倍になる」という主張もあるが、それは事実ではない。そもそも全ての品種をこのような高単価品種に置き換える必要などないし、そんな強制力もない。高い種子も安い種子も、どちらを選ぶかは農家の自由である。

そして、確かに種子代は高いが面積当たりの売上げも大きく、他の品種による収益が10アール当たりの14128円であるのに比べて、みつひかりは19812円と5000円以上多い。種子代がいくら安くても、売れなければ農家は作らない。種子代が高くても売れて収益が増えるから、農家は作っているのだ。

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種子法の廃止が、なにか大きな損失にはならないのか。いや、持つべき視点はまったく逆だろう。そもそも国民が求めるのは、米などの食料が安定供給され、価格が安定し、選択の範囲が広がることである。そのために国は各種の対策を講じており、しばらくは現状に大きな変化が起きそうにない。

むしろ懸念されるのは、こうした現状維持によって、日本の農業全体が抱える負の構造が温存され、問題の解決が先送りされることである。遠い将来にわたって国民の利益を守るために重要なのは、若者が離れて高齢化が進むなど魅力が失われている日本の農業そのものを活性化することのはずだ。種子法廃止を機に、主要作物の品種改良に多くの民間活力が参入して、魅力ある農産品が生まれ、日本の農業が元気になることを望まずにはいられない。

種子法の廃止は、都道府県に任せていた稲など品種開発に民間の活力をとり入れ、日本農業の競争力を高めようとするものである。一部には、米国企業のためであるとする声もあるようだが、米国が貿易相手国に対する関心事項を網羅的に記載している「外国貿易障壁報告書」には、過去十数年、種子法に関する記述はない。そもそも米国の大企業は日本の種子事業にほとんど参入しておらず、むしろ日本市場に魅力を感じていない現状こそ問題である。今こそ日本の農業の将来像をしっかり考えるべきではないだろうか。

追記:種子法が廃止された前後の11の道県で主要農産物等の種子の生産を引き続き義務付ける条例を制定した。そかし、その内容はすでに国が保証していることであり、これに対する理解が進んだためか、条例を作ろうという動きはその後広がっていない。

回答者:公益財団法人食の安全・安心財団理事長、東京大学名誉教授 唐木英明


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